蝉の抜け殻
寝苦しい夜が短くなって、それでもベランダに出たら蝉が鳴いている。
今年の夏の大三角形はどこにいるのか、一度もお目にかかれていない。
Tシャツ一枚でいられる季節の終わりももう近いのかもしれなかった。
同じ温度と密度ですべての人を好きになれたらこれ以上いいことはないよ、って水商売をしている男の子と話したことがある。
特別好きな人がいるからきっとうまくいかないんだって、酔っ払って嘆く彼は可愛かった。
それでも、手のひらから零れ落ちる感情の対処の仕方を知らないみたいにずっと煙草を吸っていた。
何かを繋ぎ止めたくて必死になる、失って困るものなんて殆どない癖に。
心から愛し愛されてる人に殺されたい。
それでその人は平然と生きて、たまに私のことを思い出して死にたくなってほしい。
綺麗なままでは死ねないから、来世を楽しみに眠ってみたい。
それでもし眠れない夜に襲われたら、想像の先まで愛されたい。
傲慢に、滑稽に、それでも純粋に。
バチン、と耳の横を通り過ぎる鈍い音。
寄り掛かる壁にあと何日持つか分からない命の塊。
蝉って何年土の中でその体を肥やすんだっけ。
知らないことが多すぎるけれど、同時に知りすぎることは怖い。
最近テレビも見てないし、世の中で何が起きているのかも知らない社会人気取りで、明日の天気予報なんて知ったこっちゃあない。
「そんなとこにいたってセックスなんかできやしないよ。」