誰からも愛されないようなものを愛したい。
例えば抜いても生えてくる庭の名もない雑草。
例えば小さくて着れなくなった服。
例えば台風の日の空模様。
例えば踵の折れたピンヒール。
例えば切れかかった安蛍光灯の灯り。
血の繋がりというものに、果たしてどれだけの価値と意味があるのかが、昔から分からなかった。
捨てられたと思い込んでいた夏の車内で。
子供の力では何も変えられない無力さだけが現実だった。
父親代わりと呼ばれたたかが10歳程度。
母親のことをそれから母として見たことは一度もなかった。
あの人といると、まるで私が間違った人間であるかのような気分になった。
癇癪を起こしてヒステリックになる夜中に私は耳をひたすら塞いでいた。
あらゆる間違いは小さな部屋の片隅で生まれて、小さな歪が大きな歯車の誤差を与えたらしかった。
掛け違えたボタンに気付かないみたいに。
踏み外した階段に目を触れないかのように。
私の代わりに彼女はずっと泣いていた。
東京の空は遠くて、そして真っ暗にはならない。
だけど、目を凝らせば星が見えるらしいから。
今日も少しだけ星を眺めてみようと思うよ。