脳がない!

カリソメの体でしか生み出せないものたち

落日

折角写真機で撮った写真は、ひとつのボタンの掛け違いの所為でぜんぶぼけて映っていた。

揺らめく残像がエモいね、なんて、そんなエモーショナルさは君を前にしたら無力だ。

散りばめられた蝉の死骸の断片で、安上がりな笑顔のまま御託に並べる。

夜の照り返しの息苦しさを、放り出されたドレスシューズで歩く。

頑張らなかった。

だから、私は抱きかかえて逃亡するその物さえ持ち得ないし、逆に何も残らないからいつでも忘れられる筈だった。

即ち自分の目の前の仮染の愛着の喪失よりも、余所行の美味たる笑い声を喜べると思っていた。

遥か先の事を見据えて、きっと私はそこにいないと何となくで分かってしまって、けれど誰にも打ち明けることのないままに、手に余る砂を握り潰して零す。

どこにも行けないね、これでは、きっとどこにも行けないね。