毒牙にかかる
「本当に死にたくなったら殺してあげるよ」
そう言われたことが決定打になって付き合った彼女がいた。
結局彼女とは遠距離だった所為もあって疎遠になり、私は殺されることもなく、彼女を犯罪者にすることもなく、今までを生きてしまっている。
ついぞ私は彼女の事を嫌いになる隙さえ与えられなかった。
片想いが最強です。
恋人にすらなれないのなら、嫌いになる程、好きを諦められる程、君を知らないから、片想いが最強です。
君は私のことを、恋人ですか?と聞かれたら、いいえと答えます。
だから私は同じことを聞かれても、吃ってへにゃりと笑うだけ。
蔑んだ目に殺される。
心が枯渇していく毛細血管のその先が薄暗く冷え冷えする。
要らぬと振り払った手を追い掛けたら、靴擦れした足が痛くて、その音だけが鼓動と重なって煩くて、ピンヒールを履いてきた7時間前の自分を恨む。
怖い、走馬灯のように、倒れる瞬間だけゆっくりになって駆け出した。
地べたは冷たい、冷たい街路樹の光、レインコートさえ羽織らせてくれない白い瞼。
6万の白いドレスで植木にダイブする放り投げられた翻す無垢。
私は君以外、吐瀉した後のその口に、キスを求められたって出来やしないのに。