抱き寄せた腕は空を切る。
死ぬほど辛いことがあるわけでもなく、生きたいと思うほど幸せで楽しい何かがあるわけでもなく、怠惰に惰性で、現状維持で毎日を過ごす。
将来性を気にして明日をどうだと言ってはみたけれど、そんな未来、見えてこないからそれでいいさと思っている。
捨て身なようで、至って真面目に今を生きている、それしかできない。
ここから動けない、明日も見えないけれど、先のことなんて知り得ない。
そんなものの為に、安全牌を掲げる意味すらそこにはない。
どうして、なぜと聞かれても、理由すらない、私が好きなようにしているだけ。
逃げている。
真実の核心から、それを言い放つのが怖いから、そうして自分で認めてしまうのが怖いから、その事実から目を背けている。
逃亡したい。
何も考えないで今を生きてみたい。
好きな人だけと手を繋いで意味もなく逃げ暮れたい。
帰る場所なんて存在しないからこそ、帰ろっか、なんて口にしないで。
ここにいるのにどこにもいないような、忘れもしないのに忘れてしまいそうな。
確固たる好意が欲しいだけだった雨の日の夜明け。
私のことを知ってる人なんて、貴方だけで充分なのに。
それだけで死ねるのに、至って簡単には殺してくれない訳さ。
無い物ねだりなこの生涯に祝福を。
ただ、私が愛する人から愛されたかっただけだった。