理
誰かを嫌いと言う、その速度と理不尽さが好きだった。
同じくらい、誰かを好きになる時でさえも理由なんて些細で、そんな理由付けをする必要性も、説明できるだけの言葉も持つことなく瞬く間に心臓が急接近する。
恋に落ちるとは言い得て妙だ。
そしてそんな、熟成しきった感情は甚だ厄介である。
傷つく事に対して、他人の理解というものは密度を共有する事など一生できないのではないかと思う。
君と私とでは傷つく過程も、その矛先も、その深度も違うだろうし、同じ境遇を経験したからと言って、同じ感想を持ち得るとは限らない。
そういう些細な違いがあるからいい、と君は言った。
そういう些細な違いに気付けず傷つける方が怖い、と私は言った。
相容れない事を恐れる、というのは、集団行動心理からしたら真っ当だろうと思うがしかし、そもそも集団行動心理など私には厄介事で、つまりは、たったひとりを傷付けさえしなければ私はなんだって良かったんだ。
なんだって、それだけで、もういいんだ。
炭酸ソーダ水の弾ける音を聞きながら、いつだってそこまで駆ける準備はできていて、それでも行かない、君のために行かない、それでいて、痺れた音だけを逸れた脇道で拾う、あぁ、なんて泣きそうなんだろうか。