現実は小説より奇なり
今日は最悪だとか、良い事なかったとか。
周りは結婚し出しているし、同期はそろそろ仕事が上手い具合にいきそうだとか、何が楽しいのかキラキラした写真ばかりを見せびらかしたりだとか、ところでいきなり夢語り出すドリーマーだって、主張を拡声器で響かせる政治家だって、アンチアンチアンチパレード、煩いなってミュートして、至って掴めていないものの方が多いけれど。
そんなことよりも何より自分の人生がこれでもかってくらいクソ面白くて最高って自分だけの秘密基地で大の字になる。
だって自分のことくらい、面白い方に進まなければ間違ってたって言いたいのか。
絶望し切って、失敗し切って、どうしようもなく生きているから笑えてきたりして、なんだ意外としぶといな、本当に振り切った感情や夢は黙っているものよ。
面白い事あることないこと、僻みよりも好奇心が先行する話、それですら自分の人生と同化してしまうから、ほらやっぱり人生面白い、それより決して君の話ではないって勘違いに埋もれる若葉。
男より女の方が金がかかるのよ当たり前でしょう。
血の色、生理の色、生理用品は贅沢品でも嗜好品でもありません。
そういえば愛用している化粧品もあかいろが映えるわね、女は化粧してないとだらしが無いと言われる癖に、学校では教えてくれないし、いきなり順応しろと言われるからギャルと問題児の勝ち組。
クリスマスはひとりだった、このままいったら年越しもひとりぼっちだ。
でもクリスマスを一緒に好きだよって過ごしてくれる恋人より、年越しを過ごしてくれる家族より、新年に遊んでくれる友達より、今がいいと思ってしまったから仕方ない。
私の所為だ、仕方ない。
だから、最低で、最高で、地獄みたいに咲き誇った、私をやめられないでいる。
毒牙にかかる
「本当に死にたくなったら殺してあげるよ」
そう言われたことが決定打になって付き合った彼女がいた。
結局彼女とは遠距離だった所為もあって疎遠になり、私は殺されることもなく、彼女を犯罪者にすることもなく、今までを生きてしまっている。
ついぞ私は彼女の事を嫌いになる隙さえ与えられなかった。
片想いが最強です。
恋人にすらなれないのなら、嫌いになる程、好きを諦められる程、君を知らないから、片想いが最強です。
君は私のことを、恋人ですか?と聞かれたら、いいえと答えます。
だから私は同じことを聞かれても、吃ってへにゃりと笑うだけ。
蔑んだ目に殺される。
心が枯渇していく毛細血管のその先が薄暗く冷え冷えする。
要らぬと振り払った手を追い掛けたら、靴擦れした足が痛くて、その音だけが鼓動と重なって煩くて、ピンヒールを履いてきた7時間前の自分を恨む。
怖い、走馬灯のように、倒れる瞬間だけゆっくりになって駆け出した。
地べたは冷たい、冷たい街路樹の光、レインコートさえ羽織らせてくれない白い瞼。
6万の白いドレスで植木にダイブする放り投げられた翻す無垢。
私は君以外、吐瀉した後のその口に、キスを求められたって出来やしないのに。
海の家と神隠し
夢でよく行く場所がある。
図書館のような、美術館のようなその場所で、決まって母や祖母、叔母と行くのだけれど、いつも帰りはひとりになっている。
誰かに連れ去られたと私は思うのだけれど、誰に連れ去られたのかも分からない、神隠しのようだと夢の中で思って目が醒める。
先日、久々にフェイスブックを開いた。
好奇心で調べた父の名前で、検索は見事にヒットした。
満面の笑みでお猪口を持つ、記憶より遥かに老けた父の顔写真がアイコンだった。
小さい頃はよく家族旅行に行った。
小学生の時に行った海で食べた牡蠣の味は、苦かったけれど、美味しそうに繕って食べたのを覚えている。
その海で買ったガラスのイルカの置物は、今も実家に置いてある。
楽しい人だったに違いなかった、よくゲームをする背中を見ていた、漫画を買ってくれた、それでも自分に順じない事をされるのを嫌がる父が、厳しくて怖かった。
夢にみる、家族写真に父親はいない。
だから神隠しにも当然合わないはずだ。
いつも行く図書館か美術館か覚束ない場所も知らないし、最近食べた美味しい牡蠣の店にも一緒に行くことはない。
ただ、たまに、母から、あんたの父親から連絡きたよ、と、ラインを貰うきりだ。
通行人のフリをしながら
マスクが表情を枯らしたときに、寂しい時代だと言った。
お気に入りの本を貸した、それっきり返ってこないけれど、いつか会うための口実に残しておこうと、大好きな本は大好きな人の手に渡ったまま、新品を買わずにいる。
さよならも言わずに、きっともう会えなくなった人が増えていく。
そういう人達のことを、ふと思い出す。
きっと、今もどこかで優しく暮らしているんだろうなということを思って、すれ違う誰かであったかもしれないと思って、生きている実感をする。
何時間か、もう忘れたけれど、待ち合わせ場所に来ない相手を待った時に、生きてる時間が違う人や、流れる速度の違う人が何度も何度も目の前を通り過ぎていった。
新宿伊勢丹の交差点で、気付いたら日が暮れ、ビルがライトアップされて、終いには閉店をお知らせしたシャッターが閉まっていた。
それでも待ち続けた。
あのビルの上から飛び降りたらどうなるんだろうとか、この男女のどこまでが真実なのだろうとか、量産された服を着て何処へ行くのだろうとか、まったく動かない私の時間の上で通行人がいくら飛び跳ねていても、当の私はというと時計の針を時と認知する手前で眺めているだけだった。
けれどもそれらは、誰にも侵すことのできない、たった私だけの流れであった。
何年か経った後も、すれ違った人達の色も形も、何で待っていたのか何が悲しかったのか、すべて忘れるのだろうけれど、ここから見た伊勢丹の景色だけは覚えているような、そんな気持ちがしていた。
きっと、彼らもその程度に生きていた。
私を通行人と認知してか知らずか、それでもどこかですれ違った赤の他人が、楽しかろうが寂しかろうが、きっと今も生きていることが、気持ち悪くて奇妙で嬉しくて仕方がない。
地面に降り注いだ金木犀の花束
雨の匂いに混じって、金木犀の匂いが流れてきた。
黄色い花は足の裏に浮いていた。
半袖の上からパーカーを羽織って、寒さに気付かないフリをしていた。
幸いにも凝視しなくても大丈夫だと猫の鳴き声が告げていた。
近所のコインランドリーはカラフルがぐるぐるしている。
回される衣類のことを少しだけ思った。
隣で洗濯物を預けに来たイケメンは、帰りは子供を背負って来ていた。
死にたさなんて感情は、ありきたりで当たり前過ぎるから、雨に反射して散った花火で暖を取って小さな海を見る。
どうだい、炊き上がった毛布に包まって、明日はやっていけそうかい。
君の季節は終わっちゃったけど、今日も生きてるね、と、ひと捻りの花弁に呟いた。
ミスター
僕の見た夢は、遠ければ遠い程それはそれはよく光った。
冷たい夜空によく似合った。
伸ばした手の先に掠めるものは何も無かった。
矛盾か。
果ては暗闇か。
死にたさレベル10の僕と、生きたさレベル50の君。
ドーナツひとつ分程度で満たされる欲求だった。
ついでにあれだけ欲しかったものも手に入れた瞬間どうしてここまで執着していたのか分からなくなった。
蛙化現象に陥れた君。
ムカつくくらい愛してたって言った。
僕は君を待った交差点からの景色を一生忘れないでいてやることで、一生嫌がらせしてやろうと思っている。
僕が食べないままに一生好きでいようと思っているチョコミントアイスクリームと同じように。
緻密な計算なんて嫌いだ。
小洒落た台詞はもっと嫌いだ。
素直にしか生きられない、僕も君も。
だから僕は香水とゴツい指輪だけして交差点を横切る。
今日も明日も、通行人のフリして横切る。