脳がない!

カリソメの体でしか生み出せないものたち

僕の楽園

「あんまり死ぬのを怖がるとな、死にたくなっちゃうんだよ。」

テレビから流れる夏の海と拳銃。

沈まっていく生と死の彼方に、赤い花弁を散らつかせた。

ソナチネ」が公開された年に、私はまだ生まれていなかった。

 

ある人は、人が欲している言葉を発して生きろと言う。

またある人は、守るものがないやつの信用なんかできるかと言う。

愛の死、同情の死、くたばってしまった感情の死。

背負いきれないから、すべてを諦めて逃げ出したくなる。

燃え盛る炎を横目に、海に飛び込みたくなる。

己さえをも信じられなくなってしまうから、焼ける喉を掻っ切ってしまいたくなる。

ここではない、ここではないけれど、どこに行ってもずっとずっと同じだ。

お前じゃない、お前じゃない、お前なんかじゃ糞の役にも立たない。

気持ち悪い、近寄るな、ぶつけられた感情で凹んだ臓器。

期待して、望んで、偽りの握手をして笑っていた涙。

人の背中に刃を立てて、保身、安全圏、もう見ないでくれ。

もう僕をその目で見ないでくれ。

 

それでも私は、君が茹でたパスタがザルをすり抜けて排水口に吸い込まれたとき、泣きじゃくっていたのを知っている。

冷たいシンクで、掬い上げることもなしに、泣きじゃくっていたのを知っている。

そうしてひとりぼっちで、どこまでも舌の先を血だらけにしたのを知っている。

夢の先で、頭を打って死んだサンダンカ。

死人に口なし

チケット2枚分でお一人様。

なんたって、広々使えるし、荷物だって、置けちゃうし、別に、寂しくなんて、ないし。

青空天井のガチャみたいな、そんな、運試し。

おはよう、今日の運勢は空模様、黄色のハンカチで良いことあるかも。

だから、そう、会えたらラッキー、くらいの心持ちで。

傷付きたくない傷付けたくない何でもないよだって変わらないいつもが今日も巡るだけ。

これといって、底の見えてる恋愛とか、区切られてる感情とか、見え透いた取引とか、わかり易い対価とか、面白いとは思えない癖に。

だからきっと、愛想を買おうとも思わないだろうし、豪華な手札なんて持ち得ないだろうし、よそ行きの格好でプレゼントされたって、それでフェアでしょなんて気にさせない。

0か100かしかなかった、だからその中間が存在していない。

すべてを抱えて渦中にいるか、燃え尽きる迄黙って眺めているか、選べもしないから生意気言ってる。

君の中では合ってない辻褄も、私の中では合っているからそれでいい。

この延長線上の何を手懐けようとしているのか知らないけれど、言葉は既に手放したから、物語らぬ喉、バイバイ笑って彼ノ死装束。

砂時計

膝を丸めて本を抱えた。

何を犠牲に支払ったか君よ。

何を犠牲に何を得た。

何を天秤にかけて何方を選択した。

渇く、それでも、渇いている。

飢えているのか、枯渇しているのか。

不平等に、残酷に、嘲笑って。

知識ばかり得ていたって、世界はひっくり返らない。

極楽浄土を目指したって、果てには行き着かない。

まして、地獄にいるなら愉快なものだ。

何も変わらない。

すべて有限だ。

そして、どうしたって、私は私だ。

不公平に、不平等に、手にしたものは、砂に化したって。

つまらなく着飾るより、ふんぞり返って笑うだけだ。

本棚

平行でない仕切り。

重さに耐えられなくて歪んだらしい。

陥没するのも時間の問題だった。

苛々させながら自慰行為。

捌け口を探していた。

感情にはじめまして、みたいな、質素な食事。

とうとう人間を手放したらしい。

頭でっかちにばかりなっていくから、隔壁された白の下で右手だけを消費する。

消耗されていく。

これから生きていく中で今が一番若いってのに、どこにも行けず、何にもなれず、体はずっとぬいぐるみの綿みたいに漂っている。

あーだのうーだのしか言わない機械人形。

よくも笑っていられたな。

木漏れ陽

宇宙から自分を見下ろした。

何の味もしなかった。

夜の海は映えると思う。

少しの寒さが心地良いから燃やした炎を投げ捨てる事にした。

期待しない、期待しない。

何を言っても無駄だから、そんな労力使ってやらない。

私の発言は、私の発言が求められている、聞いてくれる場所ですればいい。

そんなことより多分生肉を食べるのに忙しないから。

足跡を残した証拠を見つけるのに勿体ぶってるから。

どうしようもない。

ここでなくてもいい。

組織に依存する事ほど惨めなことはないね。

誰に何を思われなくてもいい。

私の静かな台詞に寄り添う細やかないくつかの添え木があれば。

私は木陰で休む事ができよう。

あとはぜんぶ、まとめてぜんぶ、海の底に沈めてきたって。

With me

何を誇らしげに思うか君よ。

何も持っていないから、捨てる物など何も無かった筈だった。

怖くない、腹の足しにもならないものはすべて置いてきた。

愛しき地平線のその先に。

特別ではなく、ありふれた毎日の、明日が来るってそれだけの。

それが当たり前ではなくて、だけれどうっかり隣の君が眩しいと思ってしまった、それすら愛しいと思ってしまった。

日の出のその向こう側で待っているのなら。

そこまで駆けつけよう。

星降る夜を迎えられるように。

だから私は何も言わない事にした。

無表情で感情を読み飛ばす指先。

(だから私は何も言わない事にした。)

理解を得られる筈も、吐露して楽になれる筈もないと知ってる。

(だから私は何も言わない事にした。)

喚いて激怒したり泣いて悲しむ事より、飲み込んで黙っている方が傷付かないで済む。

(だから私は何も言わない事にした。)

文句や疑念を垂れたところで、それを上回る圧力で、ネガティブ思考の突き放しを受けるに決まっている。

(だから私は何も言わない事にした。)

如何に傷付かないでいられるか、被ダメージを最小限にしていられるかを念頭に思案。

(だから私は何も言わない事にした。)

衝突から、身を案じて逃げ回って見て見ぬ振りをしている。

(だから私は何も言わない事にした。)

経済的金銭目当てか、若しくは都合のいい暇つぶしか、空白の穴埋めか、はたまたそれ以外に何があるんだろうか。

(だから私は何も言わない事にした。)

あげた分の感情や物理的品物や、それら含めた何かしらが返ってきた試しなどは一度たりともなかった。

(だから私は何も言わない事にした。)

何処で誰といるのか、普段何をしているのか、まるで私的時間に組み込まれていないから知りやしない。

(だから私は何も言わない事にした。)

そもそもきっと、心の何処かで会いたくなかったのだろう。

(だから私は何も言わない事にした。)

君が君である理由、私が私である理由は一体何だ。

(だから私は何も言わない事にした。)

君は私を好きじゃない。

(だから私は何も言わない事にした。)

それでもずっと、今でもずっと、好きだった。

(だから私は何も言わない事にした。)