脳がない!

カリソメの体でしか生み出せないものたち

橙色

夏の終わりと同時に線香花火を買った。

突き抜ける焦燥感。

何に追われているわけでもなくて。

たったひとり私だけがこの空を見ているのではないかという茜色。

思いっきり坂を駆け上がったろうか。

一目散に水辺に飛び込んだだろうか。

きっと君は真っ昼間の煩わしさを知らない。

そして私は流されるままに疾走していたはずだ。

夏はお嫌いですか。

少しくらい、火傷したって直ぐに治るはずなのに。

肌が焼ける音を聞いたことがあるか。

何度心臓を失えば気が済むのだろう。

そうして毎年、侘びしさに暮れて蜩の鳴き声を聞いている。

誰かを嫌いと言う、その速度と理不尽さが好きだった。

同じくらい、誰かを好きになる時でさえも理由なんて些細で、そんな理由付けをする必要性も、説明できるだけの言葉も持つことなく瞬く間に心臓が急接近する。

恋に落ちるとは言い得て妙だ。

そしてそんな、熟成しきった感情は甚だ厄介である。

 

傷つく事に対して、他人の理解というものは密度を共有する事など一生できないのではないかと思う。

君と私とでは傷つく過程も、その矛先も、その深度も違うだろうし、同じ境遇を経験したからと言って、同じ感想を持ち得るとは限らない。

そういう些細な違いがあるからいい、と君は言った。

そういう些細な違いに気付けず傷つける方が怖い、と私は言った。

相容れない事を恐れる、というのは、集団行動心理からしたら真っ当だろうと思うがしかし、そもそも集団行動心理など私には厄介事で、つまりは、たったひとりを傷付けさえしなければ私はなんだって良かったんだ。

なんだって、それだけで、もういいんだ。

 

炭酸ソーダ水の弾ける音を聞きながら、いつだってそこまで駆ける準備はできていて、それでも行かない、君のために行かない、それでいて、痺れた音だけを逸れた脇道で拾う、あぁ、なんて泣きそうなんだろうか。

FREEFALL

思考が病んでるよね、とか、言葉がネガティブだね、とか。

よく言われるのだが。

楽しい事はその場で既に完結しているのに、何を書く必要がある?

精々インスタにハッシュタグつけて投稿して、ツイッターに楽しかった、また行こうね、と絵文字だらけの呟きをし、フェイスブックに自慢げに載せておしまいだろ、終わった時には殆ど用無しで、つまり遡って浸るくらいの個人的お仕事を態々考える必要性すらない。

頑張れ、生きろ、努力は糧になる。

なんだそれ、胡散臭いキャッチコピーの羅列。

フィクションくさいね、そこから見える景色。

テイクフリーじゃあるまいし、安く留まってもいられないし、ところでそんなものに使用期限とか、あるのだろうか。

どうしようもないね、歩くのって大変ねって、隣をすれ違う通行人も見ず知らず。

土足で与えられた距離感と、用意された偽りだらけの見栄えで、一体何を信用しろと言うのか。

その場で息絶え絶えに、慰め合うのはここだけにしろって、言ったろ。

突き落とせ、そして、自殺計画を遂行しろ。

好きなものを好きと言えないままに好きでいることを愛でたらいい

他人は承認欲求を満たすための道具じゃねぇぞ。
そんなにその他大勢の不特定多数にかわいいね、大丈夫だよ、必要とされてるよ、なんて言われたいと思うくらいなら、私だったらペットでも飼ってムツゴロウする。
そんなことよりも結局のところ、伝えたい相手ってたったひとりだったりしませんか、でも残念なことにそういうものって伝えたい一人には伝わらずに別の所に誤送されるもんだよ。

いいねの数が自分のステータスになろうもんなら終わりだね、と思ってそういう類のSNSを傍観する。
パフェなんて頼んだ瞬間が一番おいしいし、ナイトプールは足をつけた瞬間が一番きれい。
それが分かっている癖に、見せびらかす事でしか確立できない友情とか愛情とかの為に公に晒すのって、何だか気持ち悪くないですか。
ファストフレンド、なんて言葉がいつかできるんじゃないかと思っている。
人はそんなにも従順にできていないし、まして機械でもないし、大したことがなければ一番好きな何ぞやを聞かれたら大概二番目あたりを言うように努めているような私みたいな弄れ野郎もいるわけで、そろそろパリピとか女子力とか死語になればいいと思う。

ところでそれだけキラキラしているぞ、ってことが満たされているという事に繋がるらしい。
私はそれを鼻をほじりながら聞いていた、物理で。
キラキラしている事はいい事だと思いますよ、金があることに越したことはないし、時間があるなら遊んで楽しんでなんぼだと思っているし。
でも、例えば恋人を半日待ち続けたど田舎の駅のホームだったり、例えば帰る場所もなくて靴擦れしたヒールを持ちながら素足で歩いたアスファルトだったり、例えばどれだけ愛したって愛されなかった恋だったり、安酒で飲んだくれて吐いた事だったり、そういう経験、そこから搾取された後悔とか怒りとか、くだらねぇって今だから笑えるけど、そのときはそうするしかなくて、不可避で、それが意外と好きだったりする。

絶望したことのない人の人生なんて興味ないし、だからといって愚痴ばかり散らす人なんて近寄りたくもないけれど、そういう小さい惨めで虚しい経験から後天的に自ずと選ばれてきた、その人が盾として持つ言葉だったり香りだったりファッションだったり、即ち伝える術も理解される事もなくその人独自に孤立している生き方に私は興味があるので、平等的に誰にだって見え透いた可愛い君や可哀想な君には用事がないのよ。
それが欲しいなら君に色目使ってるあそこの子が懇切丁寧に君の自尊心を保ってくれる、自己顕示欲を満たしてくれるからもう他所当たってくれよ。
煩いなぁ、こっちが溜め息つきたいんだよ、てめぇがしんどいと思ってる何倍もの密度でこっちは生きてることに疲れたんだよ。

静けさの夜

私が男だったら、月一で満足できるような女には元々多分興味がない。

都合のいい女より、都合の悪い女の方を手に入れたくなる。

可愛いと半ば呆れて愛でるより、確固たる美しさに惚れると思う。

寂しい人より、寂しくさせてくる孤独さを愛するだろうし、香水の銘柄は多分一生分からないままで、追い求める気がする。

自分が何を聴いていても、我解せずの主体性で生きていて、時折その用事を聞いてくる程度の女。

つまりは、私みたいなタイプはタイプではない。

 

幸せとは何か、ということは、一生の内に知れるのか、と思い至る事がある。

手に入れたいものを手に入れたら幸せになるのか。

自由、金や権力、愛、あらゆるものを量りにかけたときに、最も重いもののは何だろうかと、常々気にしては、結局答えなど導き出せないでいるし、これからもそうなんだろう。

永遠などない。

きっとこれらは時としてその質量を変えてくるだろうから、その天秤を心臓の底辺に置いている。

待てよ、それって、すごく、虚しくないか。

ところで、絶望を知らない人に、幸せなど訪れるのだろうか。

 

君は幸せだろうか。

ここにいてよかったと思えているだろうか。

その目には何が映るのだろうか。

何色に染まるだろうか。

今日の空の色を知っているだろうか。

その間、私は雨に溶けたみたいだ。

地平線はまだ遠い、夜は明けない。

けれどもう、始発列車は動いているさ。

ほな、さいなら。

久し振りにツイッターにログインした。
フォロー1、フォロワー1のアカウント。
聞きたいときに話を聞いて、独り言のように呟かれたそれに相槌を打って、他愛もない話で埋まっていて、誰にも邪魔されない私と君だけの空間で構築されていた。
何かあったらお互いに電話していたし、会いたいと言ったら飛んで会いに行っていた。
君の予定は私の予定だったし、私の予定も君はぜんぶ把握していて、それでもよかった。
君は私の事をちゃんと殺してくれるって約束してくれたし、多分そこが一番好きだった。
紛れもなく君と私は特別で、だけど私達は恋人ではなかった。
彼女には別の彼女がいたし、その上で彼氏もいた。
興味もなかったけれど、私はそれをずっと聞いていたように思う、主に、そんな恋人なんかより私との方が恋人らしいね、なんて話を。
5年ぶりに開いた彼女のアカウントには、「元気にしてる?私は誰かにとって必要なのかな。」と綴られていた。
それが、およそ4年前の話。
彼女が今何をしているのか、どこで生きているのか、そもそも生きているか知らないし、彼女にとっての私もそうなのだろう。
もう6月。
彼女がお腹に宿った命を下ろした月。

 

ところで、好かれすぎて殺された男も、好きすぎて殺そうとした女も、べらぼうに羨ましすぎるので、それだけの熱意を持って私を死に葬れ。

瘡蓋

夢を見た。
あなたには人の心が足りない、と言われる夢。
久し振りに見た、それは昔の記憶。
掘り返される傷跡、カサブタを剥くみたいに。
どうせ、他人は、ずっと他人同士。

何にもなれやしないよ。

だから、情けないよね、傷つけても、傷つけられても、きっとずっと後悔するんだ。

 

崩れる音がする。

壊れちゃうね。

何かの為に生きている人なんてフィクションっぽくて煌めいているから私の部屋には存在しない。

繰り返す、何でもない日。

何が良くて生きているんだか、とてもじゃないけど見えないさ。

ひとつも楽しい事なんてないのによく平気なフリしているね。

明日になって火事になって、私の肉体ごと焼け落ちてもきっとそれでよかったって、なるんだろうなぁ。

少しくらい、燦めいた両の手を、分けてくれたっていいじゃない、見せびらかしやしないよ、そんなことで生まれるエゴなんて嘘つきだもの。

大丈夫じゃないよ、これから先誰を頼って生きたらいいの、会えもしない人をずっと想ったって、甘えられやしないのに。

それでも、これでも、ゆっくり歪んでゆっくり壊して、愛してしまうから歯が立たない。

ムカつくよ、私が唯一の技量で大層殺されるよ。

どうにもならないから、小さい嗚咽で今日も世界を無理矢理終わらせるんだ。